風の起こし方

はるか昔に滅んだ「労り一族」の子孫 『労り人 久巫こ』 のブログ

預金残高30万の私が、五千坪の山林を購入することができた、いきさつ第2話【全8話】

第2話 10カ年計画発表 1.2.3.
1.10カ年計画を発表する

 Hちゃんは集落の区長で、3年の任期にもかかわらず、次もワシがするけん、と言って20年以上区長の座に居座っている集落の重鎮です。妙見山の山道を自力で修復したという武勇伝があるため誰もHちゃんに抗うものはおらず、Hちゃんの絶対君主政治が行われていました。

 私は勇気をもってHちゃん宅を訪問し言いました。今度の総会で私に15分ほど話をさせてもらえないでしょうか?Hちゃんは15分は長いなぁ。5分にして、と言いました。わかりました。私は頭を下げ、家に戻り、15分の原稿を5分に削りました。
 2018年の秋。集落の総会。私は熱く訴えました。集落を自然公園にする10カ年計画です。長老方は静かに聴いてくださいましたが、拍手はなし。つまり同意はしない、という意思表示です。私は静かに部屋を出ました。その後区長は私に対して、今後総会では二度と発言させない、そう言ったそうです。そして区長を囲む長老方からも、私は黙殺されました。訪ねて行っても玄関を閉められました。スピーチの要旨は、

1.草56しによって集落の環境が破壊され、野草を食べる伝統が破壊され、集落がみすぼらしくなった。

2.このままでは限界集落が現実のものとなる。

3.草56しと縁を切って皆で草刈りをしよう!そして集落を自然公園にしよう!

というものでした。私は当たり前のことを言ったつもりでした。しかしHちゃんは気に入らなかったのです。

 草56しを撒くほうがラク。皆のカラダもラク。その方が皆が幸せ。という思考経路です。私の言うように草56しと縁を切れば、草刈りの重労働で寿命が縮むというわけです。しかし、私に言わせれば、草56しの毒で病気になって寿命が縮む・・・というのが真実ではないか、と思います。
 この総会のスピーチの一件によって、集落の中では川崎久美子包囲網ができあがってしまいました。

 帰郷して私はネット断ちをしていました。現実の集落の住民とネット民の意識の開きは30年の差があります。私はネット社会に逃げ込むのではなく、目の前の住民の方々との関係性を築かなければ、私のかかげる夢、目標は上滑りしてしまう、と思っていたからです。

 私に理解者が現れるとは思っていませんでしたが、長老方から黙殺されるという現実は、前途多難、精神的にこたえました。それでも集落一の米農家で、草56し依存症のSちゃんへは、姿を見かけるたびに自転車をすっ飛ばし、やめてくれませんか?と粘り強く交渉を続けました。

2.Sちゃんと奥さんT子さんとの闘い
50年のキャリアを持つ町内屈指の米農家Sちゃんの陰の主(あるじ)、奥さんのT子さんは集落の女王的存在でした。私はT子さんの機嫌を損ねないよう言葉使いに注意しながら、粘り強く、穏やかな言い方ではありながら引き下がることなく、姿を見かけては自転車をすっとばし、偶然をよそおいながら話しかけたり、交渉を続けました。Sちゃんと奥さんのT子さんは日本の農家の原型ともいう三ちゃん農業(父ちゃん、母ちゃん、を中心とする家族農業)を営まれており、集落の穀倉地帯ともいえる好条件の田んぼを広く所有されていました。我が家はSちゃんの田んぼに隣接しており、定期的に農薬に暴露されざるを得ない立地条件でした。当然、集落の伝統であるほとら刈りの範囲も広く、そのすべての道路の路肩、畔を草56しで処理していました。新緑の草花が芽生える時期に広範囲に草56しを撒布し、毒が揮発し、息苦しさに耐えられない苦痛をこらえながら生活せざるを得ない状況でした。Sちゃんによって集落の3分の1は広範囲に草56しが撒かれていたのです。Sちゃんは先祖代々の豪農で、選挙の時はすべての候補が立ち寄るほどの実力者です。そんなSちゃんに私はものを言い続けたのです。私はひるみませんでした。Sちゃんと良好な関係を築くことなしに私のかかげる10カ年計画の目標どころか、我が家の安心安全の生活そのものが成り立たない。それほどSちゃんとの関係性は重要だと私はとらえていたのです。

3.見えざる黒い霧との闘い
農村というのは農業が生業(なりわい)です。歴史的にみても百姓らが住む村であり、集落であるわけです。貧しくとも助け合いながら、百姓をして暮らす、それが農の原点です。

 ところが農の近代化という時代の流れに骨抜きにされた百姓は、農薬の持つ性質、つまり自然を支配し、収奪するという目的に同化してしまい、傲慢になってしまいました。農業の近代化(工業化)という国策を盾に、百姓は住民に配慮することなく農薬を散布することがあたりまえになりました。
 ご迷惑をおかけして・・とか、体調を気遣う声掛けは一切なく、それどころか苦情を言おうものなら、国が認めている、文句があるなら国に言え!と横柄な態度で門前払いをします。国家という後ろ盾を得た集落の米農家は、武器を振りかざす暴君のごとく、農業の効率化という建前をうまく利用し、周辺住民の健康被害を意に介さず、グローバルバイテク企業の工作員の任を担わされてしまっているのです。

 Sちゃんは良いものをつくりたい一心で、農薬の散布量が模範的に多く、殺虫剤は二巡回、草56しは時間を惜しんで撒き続ける大変過保護なタイプで、病的な農薬依存症でした。何か間違った思い込みにロックオンされているのだろうと思います。ある時Sちゃんは私にこう言うのです。「僕らがクスリ使わんようになったら、クスリの会社がつぶれてしまう。」私は返す言葉がありませんでした。

 Sちゃんの言わんとすることはこうです。農薬ムラが破綻してしまえば、自分たちの農業が続けられなくなってしまう、つまり共倒れしてしまう、ということです。Sちゃんにとって農薬ムラは自分の居場所であり、食べていくための拠って立つよすがなのです。

 Sちゃんのような農薬依存症(失礼、慣行農家)の農家をいかに増やすか。それこそがグローバルバイテク企業のマーケティング戦略なのです。農薬ムラを支えるSちゃんのような慣行農家に、実際は何の見返りもありません。それどころか最終的に離農に追い込む。これが農薬ムラの真実の構造です。


 私はSちゃんの背後にある目に見えない大きな勢力と闘っていました。それは大きな黒い霧のような存在で、ベットリとSちゃんや奥さんらに浸透していました。人間を変えてしまうほどの強い感染力があり、他の農家さんも同じ黒い霧をまとっていました。この黒い霧に冒されると皆同じ考え、行動をするようになり、神様との交信が絶たれ、思考が止まり、真実がわからなくなってしまうのです。私はとんでもない勢力と相撲をとっていると思いました。

 当時の私にとって集落の暮らしは環境テロから身を守る難民キャンプと同じでした。私はタンポポの仇を討つ兵士で、Sちゃんの出方を見張り、毒から身を守り、様子を窺(うかが)っては自転車ですっとんで交渉する。その繰り返しでした。そんな終わりの見えない生活が続く中、遂に私のメンタルとカラダが限界を迎える日がやってくるのです。
第3話へつづく