風の起こし方

はるか昔に滅んだ「労り一族」の子孫 『労り人 久巫こ』 のブログ

預金残高30万の私が、五千坪の山林を購入することができた、いきさつ 第6話メガソーラー男との闘い①【全8話】



第6話 メガソーラー男との闘い ①②

 2022年4月。

 我が家に隣接する田んぼに見知らぬ男性がトラクターで田起こしに来ていました。私は様子がいつもと違うので近づいて男性に挨拶し、どうしたのですか、と尋ねました。男性は、この田んぼは自分が買ったんだと言うのです。私は驚きました。そして更に驚くことに、二階建てのメガソーラーにして、屋根は太陽光パネル、一階で米を作るんだと。私は「ちょっと待ってください!それは困ります!」咄嗟に苦情を言いました。すると男性は「自分の土地に何をしようと勝手だ。他人に言われる筋合いはない。」と強弁を振るうのです。「裁判をしたら俺が勝つ。」と。私は傍若無人な男性の態度に面喰いました。その男性に、私の知るかつてのお百姓さんの姿はありません。利益優先のビジネスマンの姿そのものでした。こんな人が隣の田んぼの所有者になったら、とうてい安心した穏やかな暮らしはできない。どんなことがあっても阻止しなければ・・。私は踏ん張りました。

 そもそもこの田んぼは、私が地主さんにお願いして貸していただけることになっていました。にもかかわらず、地主さんは私を飛び越えて、この男性に売買の仲介を頼んだのです。実績のない私はあっけなく約束を反故されてしまったのです。こうなったら正に今、目の前のこの男性と一対一の勝負をして退散に追い込まなければなりません。私は身構えました。

 私は一歩も引き下がらない覚悟で、以下の二つのポイントを伝えました。1.この田んぼはもともと地主さんから借りていた、2.私は自分で米が作りたいんです。私は精一杯の勇気と誠意をもってこう伝えました。男性は頭をぐるりと回し言いました。「だったらあんたが買えばええが。〇十万で売ってあげる。」私は売ってくれるというまさかの展開に喜んだと同時に、提示された金額が相場の倍近い数字であったため、どう逆立ちしても無理、という絶望感で目の前が真っ暗になりました。私は望みは繋げておかなければもうここで終わり、と判断し、「わかりました。後で電話をかけますので、電話番号を教えてください。」と連絡先を訊くことに成功。男性は気さくに教えてくれました。

 私はその夜、熟考しました。男性と別れた後、田んぼの地主である女性の家へ行き、あの男性に仲介を頼むのは止めた方がいい、と諫言(かんげん)したのですが、女性は何かの恩義があるようで、今更断るわけにはいかない、と言うのです。女性は男性を信頼しきっています。私は、あーこれはいちばん危ないパターンだ、と思ったのですが、80代半ばの上品なその女性の考えを変容させる力は私にはありませんでした。私は、男性を外し地主の女性との直接の取引を申し出たのですが、断られました。

 そもそも私は三反(3,000㎡)の農地の耕作者ではないので、農地法の縛りで農地の購入をすることができません(令和5年度、法令が改訂され、三反の縛りがなくなった)。実際は幾つかの方法があるようで、協力者を得て農地の購入に成功する方も多くいらっしゃるようです。ともあれ、私は額面上は資格者ではない。その上、私は慣行農業者ではなく、自然の実践者。方向性が正反対です。なぜあの女に自然農とやらをやらせるために農地を売ったのか、と後々周りの人から責められたくない。無難な方へ無難な取引をして早く手放したい。そういった女性の思惑が透けて見て取れました。自然農実践者包囲網あるあるです。私はその夜、一人考えを巡らせました。

 

 私のアタマの中はこうでした。メガソーラーはどんなことがあっても阻止しなければならない。そのためには、私が男性のいい値で田んぼを買うか、それとも、地主さんが男性への依頼を断るか。後者はムリという結論。であれば、私が買うこと以外にメガソーラーを回避する術(すべ)はない。それにしても法外な値段。仲介料をせしめる気でいる。なんというしたたかさだろう。私がどうしてもメガソーラーを避け、しかも田んぼを欲しがっているという弱みにつけこんで、この際、しっかりもうけを得ようとしている。となると、男性はさほどメガソーラーに固執しているわけでもないのだろう。私に高値で売りつけて、手数料を取った方が得だと判断したのだろう。やすやすと男性の策略に乗る私はバカを見るのだろうか。それともーーー。私は男性に直接値引きの交渉をすべきであろか・・。いや待て、気を悪くして売る気をなくされても困るーー。

 私は身に降りかかったこの一件について、何の経験も知識もなかったため、村の重鎮に相談してみたのですが、資格のない者が手数料を取ることは禁止されているということでした。私は、これは警察に相談すれば、注意なり指導なりしてくれるのではないか、と期待して相談したのですが、思いも寄らない答えでした。警察の言い分としては、1.まだ起こってもいないことに介入できない、2.売買取引の価格についてはあくまでも双方の交渉によって決めるものであって、売り手の、高く売りたいという自由は尊重される、というものでした。



 私はこの第三者のアドバイスを参考にしながら、私はどうすべきか考え抜きました。メガソーラーの事業に関しては、町役場の審査が必要、更には隣接地の所有者の同意が必要、ということもわかり、男性の計画はすんなりとは進むわけではないということがわかりました。であるならば、男性をさほど恐れることはないのかもしれない。メガソーラーは建設されない公算が大きい。であるならば、法外なお金を使う必要なない・・。男性のことなど気にせず、あたりさわりなくお付き合いをして暮らしてゆけばよいのではないか・・。しかしーー。私は更に本質的な領域まで思考を深めました。ここで出費をせず得るものがあるだろうか?今後、農地を取得できるチャンスが巡ってくるだろうか?傍若無人という印象はあるけれども、私に売ってくれようとしている。地主の女性は私のことは相手にしていない。いや、女性だけでなく、集落の誰もが私を認めていない。この男性を介することなしに、農地を所有することは極めて困難に違いない。今、目の前にあるチャンス。私は、このチャンスはつかむべし、という深いところからの答えを得ました。田んぼはとても立派です。日当たりも申し分なし。水の便もよく、源流からすぐで水はけもよし。収量も見込まれます。しかも我が家から0分。隣接地です。これ以上の好条件はありません。買おう。私は決めました。

 私はまだその時、あの総会でのスピーチが現実化したのだ、ということに気づいていませんでした。降って湧いたメガソーラー宣告。絶体絶命の大ピンチ!我が家最大の危機に、私は自分に備わった全ての知恵と能力を総動員して、メガソーラー回避の道を探りました。買うという道以外の選択肢はない。夜を徹して思考の闇を彷徨い歩き、遂に得た結論がこれでした。


第6話 メガソーラー男との闘い② へつづく