最終回⑤(~⑦完結)
私は電話の向こうにいるK.Tさんと、思想戦を闘う覚悟を決めました。K.Tさんは経営者として、山林と言う財産をいかに有効に活用するか、もっと言えば、損をしないで得をするか、そろばんを弾かれています。数店舗の経営ということなので、ソツのない方であることは話しぶりからわかります。K.Tさんは山林の売買をビジネスの延長線上でとらえておられる。私はまずこの点に対して、どうしても譲ることはできませんでした。
山は売買するものではなく、「託す」ものです。先祖代々受け継がれてきた神様の御神体のお手入れを、次の世代へ頼んだよ、と言って願いを込めて託す。「願い」のバトンが受け継がれて、縁あって自分がそのお役目を担う。そして託す。その繰り返しによって、日本の国土が守られてきたのです。
三世代前までは、日本のムラと集落は山と伴にありました。ところが市場原理主義が幅を利かせるようになり、ムラや集落にまで侵食してしまったのです。「願い」が受け継がれなくなった結果どうなったか。地主が集落の住民ではなくなり、手入れがされないまま放置されるようになりました。
バブルの時代、大金をはたいて購入した山林も、今では十分の一に価格が下落していると言います。売却しようにも、空き家の増え続けている限界集落には、年金暮らしのお年寄りしか住んでいません。そこで救世主の登場です。チャイナです。
洋の東西を問わず、今も昔も、悪人は善人の顔をしてやってきます。SDGsのブームに乗って(いや、ブームを演出した)太陽光発電はいかがでしょう、それともキャンプ場経営は?手放したい?ご安心ください。即日、現金をお渡しします。地主の弱みにつけ込んで、あの手この手で地主包囲網が張り巡らされています。価格が底をついている今の好機を、チャイナが見逃すはずがありません。
チャイナの支配は兵器によってではなく、実行支配。つまりは土地の買い占めによって国土を占領する。こういった工作にかけては、いかなる国もチャイナの右に出るものはありません。
電話の向こうのK.Tさんは、正にこのチャイナの水面下の工作に嵌められようとしていたのでした。
最終回⑥へつづく(~⑦完結)